ヘリグロチャバネセセリ
解説
23時55分新宿発の長野行き夜行列車は,まだ夜が明けやらぬうちに甲府盆地を通り過ぎる。多くの登山客に紛れていた高校生虫屋が降りたのは,日野春という小さな駅。背後には雑木林と田畑と草原が入り混じった,典型的な日本の田舎が広がっていた。ゼフィルスやオオムラサキで有名になったが,1970年代までは,ヒメシロチョウやゴマシジミやセセリチョウ類も多く,関東の虫屋なら一度は必ず訪れる場所だった。へリグロチャバネセセリも,線路沿いに咲く花に無心に蜜を求めていた。孵化した1齢幼虫は,葉を摂食せずに,卵が産まれた葉の凹みに繭を作り,その中で越冬するというチョウとしては変わった生態を持つ。その日野春にも,草地がもうほとんど残されていない。まだ絶滅が心配されるような種ではないが,山地草原という環境そのものが失われつつある現在では,楽観視はできない。コンビニも弁当屋もなかった時代,駅前の「アルプス食堂」と「観光食堂」で皆,腹を満たした。その二軒の食堂もいつしかなくなり,あの夜行列車も廃止された。
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Thymelicus sylvaticus (Bremer)
キャッチフレーズ
繭を作って越冬
分布 北海道,本州,四国,九州
年間の発生回数 夏1化
食草等 クサヨシ・カモジグサなどのイネ科やカヤツリグサ科
成虫の出現時期 6-8月
越冬態 幼虫
成虫
成虫 成虫
幼虫 幼虫巣
食草:ヒメノガリヤス 生息地