ベニモンカラスシジミ
Fixsenia iyonis (Ota & Kusunoki)
キャッチフレーズ
解説
中部地方から西の本州と,四国の山地にきわめて局地的に分布する。産地でも正確なポイントを探し当てることは容易ではない。南アルプス南部の険しい山々を刻んだ渓谷を集めて流れる川の音は,せせらぎと呼ぶには少し荒々しい。人家も神社も森林でさえも,急斜面に辛うじて引っ掛かっているようだ。ミヤマカラスアゲハやミスジチョウがときおり横切る林道の一角に咲く花が,梅雨時の鬱陶しさをしばし忘れさせてくれる。道わきの水溜りの上には,綿菓子のようなモリアオガエルの卵塊がぶら下がっていた。このチョウが信州南部に分布することが確認されたのは1974年。石灰岩や蛇紋岩が露出した樹林にすんでいる。山仕事をしていた83歳になるという老人は,「東京の土はどんな土か」と問うた。一生を自然とともに暮らしてきた人の素朴な疑問だった。東京には行ったことがないというその老人の傍らで,ベニモンカラスシジミは無心に吸蜜していた。彼らが世に知られる以前から,その風景は変わっていないに違いない。でもこの珍蝶のいる集落は,これからも変わらずにそこにあり続けることができるのだろうか。発見地の愛媛県皿ヶ峰では絶滅した。今年もまたウツギの白い花が咲く季節が巡ってきた。次の週末には会いに出かけよう,その花がいちばん似合う恋人に。
白い花の咲く頃
分布 本州(中部地方・中国地方・紀伊半島),四国(愛媛県皿ヶ峰・四国東部山地)
年間の発生回数 夏1化
食草等 クロウメモドキ・キビノクロウメモドキ
成虫の出現時期 6月
越冬態
レッドリスト 中部地方亜種/準絶滅危惧(NT)
中国地方亜種/準絶滅危惧(NT)
四国亜種(名義タイプ亜種)/準絶滅危惧(NT)

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成虫
成虫 成虫
成虫 食樹:クロウメモドキ

生息地