解説 |
気温が35℃を超え,何かをやろうとする気力をすべて奪われてしまったようなお盆過ぎ,南房総の谷間が朝からむせかえるような湿った空気に包まれる日がある。冷房のかかった部屋で寝ている場合ではない。ルーミスシジミはそんな日を特に好むようで,川辺の地面やカシ類,アジサイの葉上などに無数に群れている。でも実はこのチョウは,千葉県以南の常緑樹の原生林を主なすみかとする珍種。多産地として知られていた奈良県の春日山では,昭和7年にチョウとしては初めての天然記念物に指定された。ここでは伊勢湾台風の被害と農薬散布などで絶滅したとされているが,天然記念物であるがゆえに誰も手が出せず,実際に個体数がどのように推移したのかを調べた人はいない。推定された絶滅原因の真偽を確かめるすべは,もうない。従来多化性とされてきたが,房総半島などでは1化性であることが近年ほぼ確実視されるようになった。成虫越冬で1化性の生活史は,シジミチョウとしてはきわめて特異。その生息地には,時折上空を横切る飛行機の音以外,人工物の気配は何もない。 ルーミスシジミがいるところにはヒルも多いので,採集や観察に行く際には十分な対策を。 |
分布 | 本州(千葉県以西),四国,九州(屋久島を含む) |
年間の発生回数 | 夏1化 |
食草等 | イチイガシ |
成虫の出現時期 | 7-11月・越冬後の春 |
越冬態 | 成虫 |
レッドリスト | 絶滅危惧II類(VU) |